泡沫のユメ

どこからでも読める金太郎飴みたいな短編小説書いていきます

アンパンマン勇気の花がひらくとき、レビュー

○あらすじ

キラキラ星のキララ姫がお城の生活にうんざりしたので抜け出したところ、アンパンマンと出会った。そこでパン工場や街の皆とも仲良くなっていったが、仲でもアンパンマンは特別で独り占めしたくなってしまう。しかしそれが叶わないと知ったキララ姫はアンパンマンの勇気の源、勇気の花のジュースが入っているビンを割ってしまい…

 

○注意事項

・個人の感想です

アンパンマンは映画もアニメもちょびっとした見たことない人のレビューです

 

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花うらら2

 クラスは受験ムードに包まれピリピリとした空気になりつつあった。朝早く登校し遅くまで残る生徒が増えたが、浦田はほどほどに来てほどほどに帰るようになっていた。これまで浦田は、職員室へ教室の鍵を取りに行かなければならないくらい早くに登校していた。というのも、それは同様に朝早くに来ていた立花先生に、鍵を取りに行ったほんの数分ではあるが会えるという下心があってのことだった。自分のクラスには立花先生が担当する授業はないので、会う機会がほとんどない中での数分は貴重だ。

今やクラスメイトが朝早く来るようになったので、それより早く来ようというのなら睡眠時間を削ってまで早朝に起きなければならない上、立花先生が既婚者子持ちだと知ってしまってから会うのが辛くなってしまったので教室へ一番乗りをするのはやめた。会えばどうしても目に入る左手薬指。諦めなければならないとわかっているのに、悲しむべきか喜ぶべきか、そう簡単に諦められる程度の気持ちではなかった。無論相手には何も伝えていないのだから、自分がこうして悶える日々を過ごしていることなど知ることもなく、家族と楽しい生活をしているのだろう。それを考えると複雑な気持ちになる。

それからというもの、月並みではあるが、話題の片思いソングを流しては自分に重ねた。先生を好きになった生徒の体験談をネット検索にかけた。校門前で立花先生が立っていたら、不自然にならないよう注意を払いながら早歩きですり抜けた。職員室も立花先生の机とは遠いドアから入るようになった。

もういっそ忘れてしまえば楽になる。何か夢中になれることをしよう。そうすれば自然と忘れる。

 

「ってそれ受験勉強しかないんだよなぁ…」

 

浦田は大がつくほど勉強がキライで、勉強をしようと机に向き合おうものなら部屋の掃除をはじめるような人物だった。つまり勉強に集中なんてできるわけがない。もちろん受験を控えた今集中しなければならないことは痛い程わかっているが、できれば現実は見たくない。クラスの平均点が下の中くらいだなんて考えたくないのだ。

 

「浦田なに独り言言ってんの、気持ち悪っ」

「石井さん?センチな今そういうこと言うのやめてもらえます?」

 

受験に特化された授業の休憩時間、机に突っ伏している浦田の横で、友達の石井が冷めた目をしていた。以前石井に、受験で忙しい今恋してる場合か!と言われ、してしまったんだからしょうがないじゃないかと答えたときと同じ目だ。

 

「あーもう勉強したくないけどさっきの授業、わかんない問題ばっかりだった~教えて石井~」

「悪いけどあたし別館に教室移動だから行くわ。先生に聞いたら?幸い誰かの質問に答えてるみたいだしまだそこにいるじゃん」

 

また後で、と手のひらを振って石井が教室のドアをガラッと開けた。ちくしょう、私も同じ授業とるんだった!

受験特化の授業は、A教室は1限目は国語で2限目は数学、B教室は1限目理科で2限目国語、というように教室や時間ごとに様々な授業を行う。生徒たちは受けたい授業を自分で考え選び、あちこち教室を移動するのだ。

次が教室移動なのは私もだけど、移動先は隣のクラスだからまだ少し時間に余裕がある。教卓のところで先生に質問していた生徒の話が終わるころを狙って、先ほどわからなかった問題の解説を求むべく先生に話しかける。

 

「せんせー、さっきの最後の問題なんですけど、」

「あっ浦田さんごめんなさい!僕職員室寄って別館に行かないといけないんです。質問は後でもいいですか?」

「そうなんですか!全然いいですよ、ダッシュで行ってください!」

 

急いでいる様子の先生を引き止められるはずもなく、浦田はただ見送ることとなった。先生はハンカチ片手に汗を拭きながら、開いたままのドアから小走りで去ってしまったので、仕方なく自分も教室移動する準備をしようと思ったそのときだった。そのドアから、入れ替わるように別の先生が入ってきた。

 

「良かったら私が答えますよ。どの問題ですか?」

 

その、声は。

 

「た、立花先生…?」

「お久しぶりです、浦田さん」

 

にっこりとキレイに微笑みかけてきたこの人物こそ、浦田が思いを寄せている立花先生だ。彼の指には銀色のリングが輝いていた。すかさず高まる鼓動に、一瞬息ができなくなったのではないかと錯覚する。いや待てこの恋は終わったんだもう忘れるんだ。落ち着いて深呼吸をする浦田を心配して、立花先生が顔をのぞきこみ、大丈夫ですか?と声をかけた。

顔が近い。

 

「だ、大丈夫でひゅッ!」

 

噛んだ。恥ずかしい。

先生の顔を見れないままさっきまで突っ伏していた机につかつかと戻り、教科書や筆箱を鞄に突っ込むと、鞄のチャックを半開きにしたまま教室を出て行った。 周りにいた生徒たちは、浦田の気持ちを知っている者も知らない者もいるのだが、どちらもぽかんと両者を見つめていた。そして浦田は隣の教室の空いている席に適当に座った。久々に先生に会ったからか顔が沸騰したやかんのようだ。赤くなっていないだろうか、それがただひらすら心配になる。もし先生にこの気持ちがバレようものなら、困ったように笑うか呆れられるかするのだろう、きっと。彼がどんな人物かを考えればおそらく前者だろうが、どちらにしても迷惑をかけることには相違ない。

 

「浦田さーん」

 

ひそひそ声のトーンで自分を呼ぶ声が聞こえた。ビクッと肩を揺らして振り返ると、立花先生がドアを少しだけ開けてこちらを呼んでいたのだった。丁度そのドアから近い席にいたので、周囲からの視線はそれほど感じないのが救いだった。

 

「わからない質問をそのままにしておくのはテストを甘く見ているあなたらしいですが、受験においては致命的です。後でちゃんと職員室に質問しに来てくださいね」

 

そう小声で話して、また微笑んだ。それはそれは見惚れてしまうような笑顔で。カラカラと小さな音を立ててドアが閉まる。浦田の思考能力が停止した。後で職員室に来て、って。なんだそれ。

こちらが必死こいて避けていたのを、素知らぬ顔で逃げられないように退路を断たれたような気分だ。

 

「どんな顔して会えばいいのよ…」

 

顔の火照りは、授業が始まってもしばらく収まらなかった。

 

  

あけました

2017年、あけましておめでとうございます。

ほんの少し前に年賀状出したと思ったらもうお正月ですよ!早くないですか!

ということで、昨年の振り返りをするとともに今年の目標を考えていきます~

まず振り返りから!

 

○個人的3大ニュース

挙げるときりがないのでまとめると、不倫、解散、ポケGOですかね。重いワードになんか混ざってるのは気にしちゃいけねえ。お前新年早々そういう暗い話題ぶっこむなよとか思っちゃいけねえです。

まあはじめに不倫ですが、芸能人があの人もこの人まで不倫してしまって衝撃を受けたものですけども、ドラマでも不倫ものが何作かやっていて正直ナンジャコリャアア!!!でした。丁度そのタイミングで私に好きな人が出来たわけですが、なんの因果かその人が結婚していて子持ちだったことがわかり、「私とこの人が両思いになってしまったら不倫になってしまうのか…」と思ったもんです。昔から不倫する人はバカモノだと思っていたので、奪う気などさらさらなく諦めましたが、不倫とは身近にあるものなの?と軽くビビりました。不倫はOUTですが、それ以来叶ってはいけない恋がすごくグッとくることに気付きまして…教師と生徒とか既婚者とか、手を出したら人としてダメだけど片思いしてるから近づきたい、でもダメだっていう恋がすごく好きです。私が書いてる短編小説に出てる浦田という子は、先生に恋する生徒キャラということで、もろに私の好みを反映させてますね。

次に解散、というとすぐ浮かぶのはSMAP℃-uteなどのアイドルですね。根っからの大ファン!ではないですけど、好印象を持っている人たちで、年々好きになっていってるのに解散となるとやはり寂しいです。解散ではないですがももちや成宮さんが引退するというのも同様に痛い。誰かが芸能界からなくなるということは誰か新しい人が入ってくるという意味でもありますが、そうすぐに切り替えはできません。とにかく今は、いつか戻ってきてくれたらなーと淡い期待を抱いておくことにします。

ポケGOは社会現象にまでなりましたし、私もリリース1週間後にプレイしはじめて、まわりでもポケモンを知らない人までもプレイしていていい話題になりました。ポケGOをきっかけに仲が少し深まった職場の人もいるので、本当に!!ポケGO様々です!!…とはいえ、今は図鑑50種類くらいで止まっているし別のアプリにはまってしまってますが…。そもそも私にはコレクター欲みたいなものがあまりなく飽き症なので、○○を集めてコンプしよう!というのは確実にモチベが続きません。例えば他にも、好きなキャラクターのグッズを全部ゲットする!とかゲームのスコア上位に食い込む!とかいう気持ちはなく、ほどほどにできればいーわみたいな適当人間なんです。ゲームでいうとRPGのように展開がめまぐるしい方が興味をひくのでゾッコンなのですが、パズルゲームとか育成ものとかほのぼの○○生活みたいなマンネリ化しがちなものはすぐに飽きます。だから何かのファンとかオタクになって何年もこれを続けてます!ファン歴数十年です!みたいな人がすごく羨ましい!!!あれもこれも買っちゃったとかいいじゃねーか!!!飽き性はハマってもすぐ興味を失うから何にも夢中になれねーんだ!!!

そんな1年でしたね~

 

 ○今年の抱負

昨年は改革の1年にしたくて、一人暮らしはじめたり、メイクやアクセを買ってみたり、ダンスサークルに入ってみたり、この小説ブログはじめたりと色々ありました。なので、今年は改革したことを飽きずに続ける!という感じでいこうと思います!すぐね。すっぴんで出歩いたり小説のネタ浮かばずにテレビにかじりついたりしますからね。

具体的には、月に2作品以上短編小説を作ることにしようかと。仕事で忙しくて書けないことをふまえ、でも1作品は少なすぎるので2にします。2も少ないけど!

あとは仕事を辞めて天職につきたいなあ…なんて。まあ無理なんだけどさ!ダンスとか小説とか手芸が好きだからそういう仕事とか向いてんのかな。天職ってなんだよわかんねー

 

とまあ、そんな感じで今年も適当にゆるっと頑張るぞー!

 

 

クリスマス前に変な人に絡まれる話

賑やかな雑踏から扉一つ隔てて、レトロなメロディが流れる喫茶店。その落ち着いた雰囲気の中、テーブルはほぼ満室になっていた。肌寒い季節の夕刻18時すぎ、家族連れやカップルなどが談笑している姿がちらほらと見える。私はエビたっぷりグラタンを一つ注文してから、ふうと一息ついて辺りを見回した。さすがに時間が時間だけあって人が多い。

 

「(この時期に一人で来るのはまずったな)」

 

年末の一大イベント、クリスマスを控えたある日。一人でいるのが浮いてしまうほどに、周囲には楽しそうに話している人が大勢いる。大勢の中に自分一人がぽつんといるとどうにも孤立を感じてしまうからいけない。でも見たかった映画を見るチャンスはもう今日しかないのだ。今までにも見る機会はたくさんあったのだが、出かけるのが面倒くさいと理由をつけて先延ばしにしていたのがいけなかった。こんなに一人でいづらい時期に一人で映画を見に来るとはなんの罰だろう。しかも上映まで1時間と少しある。ひまだ。

話し相手もおらず注文したグラタンが来るまで手持ち無沙汰なので、水をすすりながらぼんやりと前を俯きがちに見てみた。客層でいうと幅広く老若男女揃っていたが、ちょうど前のテーブルには夕食を済ませたらしい同年代くらいの男性が紅茶だかコーヒーだかを一人で飲んでいた。もしかしてあの人も一人で来ているのだろうか?まさかの仲間に少しだけ勇気づけられたとともに嬉しくなったそのとき、

「…!」

と、その視線に気付いたのか男性とばっちり目が合う。思わず目をそらし慌てて携帯を触るが、完全に遅かった。

 

「こんにちは。ご一緒していいですか?」

 

不意に頭上から降ってきた聞き覚えのない声にフリーズする。もしかして…さっき目が合った人が来た?そう思い目の前のテーブルをちらりと盗み見ると、椅子に座っていたはずの人がいなかった。その代わりに先ほど目が合った男性が、私の向かいの椅子を引いて今にも座ろうとしていた。なんだこれ?ナンパ?

 

「え、あの」 

「え、都合悪いですか?」

「(そう言われるとなんか断りにくい)いやー…そういうわけでは」

「良かった。じゃあ遠慮なくお邪魔するね。あ、俺シャルルって言います」

「はあ…(ちょっとは遠慮しろよ)」

 

一人でいることに不安や緊張はあったものの、見知らぬ人といるなんてより一層緊張するからイヤだというのに、全くその聞き方はずるい。この人こういうこと慣れてるんじゃないか?その証拠に人懐こそうな笑顔を浮かべて、さらっと敬語を外してくる。やっべえな、まずい人と関わってしまったのかもしれない。

 

「そんなイヤそうな顔しないでよ」

「そりゃイヤですよ。知らない人急に来たら」

「その知らない人をじろじろ見てたのに?」

「なっ見てないですよ!ヒマだったからなんとなーく前を見たら目に入っただけです、人を変態みたいに言わないでもらえますか!」

 

そっかごめんごめん、と彼は微笑んだ。一瞬かっこいいと思っていた自分を殴りたい。確かに笑顔は人形みたいに整ってるけどさ。苛立ちに任せてがばがばと水を飲んでいたらもうグラスはほぼ空になってしまった。

 

「今日はどうしてここに?」

「…聞いてどうするんですか?」

「あはは、警戒心剥き出しだね。別にどうもしないって。せっかくの縁なんだし、ちょっとだけ話付き合ってくれないかな?」

「(めんどくさい。お腹空いた)」

「あ、俺はたまたま仕事が早く終わったから映画でも見ようかなーと思って来ただけでさ。ほら、好きな人と仕事でバディ組んで色んなトラブルを解決するみたいなやつ。CMでよく見ない?」

「(グラタン早くこないかな)」

 

 ビジュアルが良くても馴れ馴れしい性格だとぶち壊しだな、と思いながら聞こえてくる話は右から左へ。近くを通る女性店員が恥じらいながらちらちらとこの面倒くさ野郎を見ているが、絶対にやめとけよ。苦労するぞ、色んな意味で。

 

「なるほどね。だからお兄さんは好きな人とトラブったから、それを解決するために仕事でバディを組んだと」

「俺の話聞いてた?」

 

聞いてません。と答える代わりに、視線をずらして窓の外を見ると、木の周りをイルミネーションが華やかに飾っており、人々は寒そうにコートやマフラー、ストールなどに包まれながら身体を縮こまらせていた。中にはミニスカートをはいている女子もいて、見ているだけでも寒くなってきた。 

 

「…お姉さん?」 

「(グラタンって焼くの時間かかるしな、時間かかるのはしょうがないけど、早くしてくれないと困るよね、色々)」 

「おーい、聞こえてる?お姉さんってばー」

「(あー早くグラタン食べて暖まりたい)」

「あ、注文したやつきたよ」

「グラタンきた!?」

「そこは聞こえてたんだ」

 

チーズの焼けた香りとともにやってきた店員さんが、熱いのでお気をつけくださいと言いながらあっつあつのグラタンと伝票を置いて去っていった。ついにご飯が食べれる!と思った私はフォーク片手にがっついた。食事中だけは静かだね、と家族や友達から定評のある私が、お向かいさんの話を聞くかどうかなんて結果は決まっていた。

 

「俺の話どうしたら聞いてくれるかなぁ」

「…(もぐもぐ)」

「それかお姉さんの話が聞きたいんだけど。だめ?」 

「…(もぐもぐ)」

「…」

「…」

「もう…わかったよ。 コーヒーブレイクも済んだことだし帰るね」

「ふぁい」

「…ごめんね、急に押しかけて。後でお詫びはさせてもらうよ」

「おあいってなんれふか」

「……食べてるときに話かけた俺が悪かったよ。少しだけど付き合ってくれてありがとうね」

 

彼はバチッとウインクをしながら(懲りないな)、ここのグラタンは美味しいから味わって食べるんだよと捨て台詞を残して会計へ歩いて行った。 オカンかよ。確かに美味しいけど。

そもそも、なんだか常連のような物言いだな、ということをぼんやりと考えて、フォークを持つ手が止まってしまっていたことに気付く。

 

 「(まあいいか)」

 

それにしてもかっこ良いなりに変な人だったな。あれはナンパだったのか?寂しがりな人だったのか?自問自答してみても答えなど知るよしもなかった。少し可哀想なことをしたような気もするが、いかんせん関わるのが面倒くさかったので致し方あるまい。

まあ、ちょっと面白い人ではあったけれども。

 

 

「お待たせ致しました、プリンアラモードでございます」

 

グラタンがあと数口で食べ終わるというころという丁度良いタイミングで、店員さんがデザートを持ってきた。いや待て。

 

「え、頼んでませんよ」

「先ほど男性のお客様から、お詫びにとのことで注文を受けましたので…」

「私の前のところに座ってた人ですか?」

「?はい、そうですよ」

「…」

「ごゆっくりどうぞ~」

 

ちょっと面白いとかいうのは前言撤回するとしよう。

 

やっぱりあの人、めんどくさい。

 

鬼の荒療治

「ああ?何だって?聞こえねーよそんな小さい声じゃあ」

 

怒鳴るかのような声が辺りに響きわたった。地声が元々低くて大きい彼が声を張ると、空気は一瞬にして張り詰める。周囲の人が一斉にこちらを見いやるが、大事ではないとわかったのか再び各々話しはじめる。私はびくびくして泣きそうになりながら返事を返した。

 

「ご、ごめん、三ツ原くん」 

「ったくよー急に呼び出されて来てみりゃあ、お前は昔っから変わんねぇな。鬼柳って名前に負けてんだよ。もっとどっしり構えとけ。で、さっき何て言ったんだ」

 

そう言って三ツ原くんは腕を組んで壁にもたれかかった。昼休み、友達と遊んでいる三ツ原くんを呼び止めたとき、それこそ鬼のような形相だったから背筋が凍ったものだけど、なんだかんだ話は聞いてくれるらしい。ありがとう。でもその怖い顔はやめて。

  

「ずっと前から悩んでることがあって、相談にのってほしいの」

「それはさっき聞いた。その後」 

「…えーと、三ツ原くんが知ってるように私って声が小さいでしょ?ほんとは私も嫌なんだよ。授業中先生にあてられても、目の前で落し物をした人に声をかけても、友達を見かけて呼ぶときも聞き取ってもらえなくって。三ツ原くん声大きいし幼馴染でお互いのことよく知ってるから、解決策考えてくれないかなって」

 

言い終えて恐る恐る彼を見ると、ふーんと言って斜め上を見ていた。眉間の皺は相変わらず深い。

 

「ど、どうかなー」

「知らん。俺に聞くな」

「え!」

 

即答ですか!

せめて少しは悩んでほしいところだよ。他人にとっては大したことない、頑張って声出せで終わる悩みかもしれないけど、本当に苦痛だから自分を変えたい。餅は餅屋、声を大きくしたいなら声が大きい人に聞けば、なにかヒントが得られるんじゃないかと思ったんだけど。

あんまり引き下がって三ツ原くんの機嫌を損ねるわけにはいかない。今でも充分不機嫌かもしれないけど。というか貧乏ゆすりしてるから確実に不機嫌だ。これ以上怖くなってはたまらない。せっかくだけど大人しく諦めて別の方法を考えるとしよう。

  

「わかった。じゃあ別の人に聞いてみるね」

「…おい待て。それで終わりか?」

「?うん、だってあんまり乗り気じゃなさそうだったから」

「他に何か言うことあるだろ」

「(え?え?)聞いてくれてありがとう…?」

 

さっきまで冷たかった三ツ原くんが急にこっちを向いて突っ込んできた。そういえばお礼を言ってなかったと思ったのでありがとうと言ったのに、呆れたような表情をされた。なんで。

 

「ごめん、やっぱりわかんない」

「あ?マジで言ってんのか」

「(怖!)う、うん…他に言うことってなにがある…?」

 

何度頭をひねっても思い浮かばない。相談があるって言って声が小さいことを話したら知らんって言われて、じゃあ他の人に聞く、ありがとう。この流れに何か変なところあった?言い足りないことがあった?

わからないので聞いてみたのに、三ツ原くんはなぜか視線を泳がせた。

 

「あー…その、なんだ。あれだあれ。カラオケ行くって約束してただろ」

 

……んっ!!? 

 

「え、なん、カラオケ?約束した?いつ?」

「小さいときだよ。忘れたのかよ」

「いやいやいや忘れたもなにも絶対してないよ!するはずないよ!私声量ないからカラオケ嫌いだもん!しかも小さいときの約束を今!?」

「嫌いだから克服したいって言ってた」

「絶対ウソ!」

「ウソじゃねーし。行くぞ、放課後」 

「イヤだ、行きたくない。急になんなの?なんでそんなにカラオケ行きたいの?」

「ばっ…別に俺は行きたくねーよ!俺はただお前の、」

 

ために。

と、唇が動いた気がしたのは気のせいだろうか。きっと気のせいだ。彼はぼそぼそ話す私のことなんてうとましく思ってるんだろうから。優しさで今こうして付き合ってくれてるだけだから。ただの昔からの幼馴染、として。

 

「おら。行くぞ。声量ないからカラオケ行かないとか言って逃げてっといつになっても蚊みてぇな声のまんまなんだよ。さっき充分でけぇ声出せてただろ。本気出せばできるんだよ。6時に駅前な、絶対来いよ」 

「ちょっ…待っ…!」

 

そう言って三ツ原くんは鼻歌混じりに立ち去った。

地獄だ。

 

女も度胸

女は愛嬌、って誰が言い出したんだろう。

そんなものあたしには無縁の言葉だ。何で面白くもないのに笑って媚を売ってご機嫌取りをしなければならないんだろう?無駄に神経を削って疲れるだけだ。それがイヤだからあたしは素直に生きる。仮にそれで距離を置かれたとしても、そこまでの人だったというまで。

そんなことを、目の前で楽しそうに話しながら登校している生徒たちを見て考えていた。

 

「石井おっはよー!」

 

ポンと肩を叩かれる。聞きなれたこの声は振り返らなくてもわかる、友達の浦田だ。クールとよく言われるあたしに付き合ってくれる数少ない一人。あたしと違って喜怒哀楽くるくると表情が変わる子だ。正直羨ましいと思う気持ちはあるものの、真似できない。

 

「おはよう浦田。今日もうるさいね」

「朝からひどいなーもっとテンション上げてこ!」

 

学校へ向かう前からそんなにテンション高い人いないでしょ、と心の中で突っ込んだ。

 

1限目はホームルームで、体育祭に誰がどの種目に出場するのかを決める時間だった。先生が黒板に障害物競走、借り物競争、50メートルリレー、四人五脚、綱引きなどの種目を書いておき、この種目に参加したい人、と順番に聞いていくので、皆が次々挙手して決まっていった。そうしてどれもやりたくない人、やりたい種目があったもののじゃんけん負けした人、特に何も考えていなかった人などが残った。その数約5人、あたしもその中に入る。浦田も。

 

「俺なんでもいーわ」

 

気だるげに話しているのは、顔が怖い男子として第一印象最悪の三ツ原だ。もちろん顔が怖いだけであって話す分には特に問題はないのだが、一部の人からは恐れられているらしい。

 

「私も何でもいいよー」

「足遅いからリレー以外ならいいかな」

「僕も余った種目でいいけど、決まらないね。どうしようか」

 

三ツ原に続いて皆何でもいいと言い出す。あたしだって何でもいい、でもこれだとキリがない。今の段階で残っている種目はリレー3枠、四人五脚2枠となっている。

 

「三ツ原は運動部で足も速かったよね、だからリレーのアンカーでいい?浦田と鬼柳は走るの苦手だし四人五脚のメンバーとも仲が良いからそっちで。残りがリレーでどう?」

「おー!石井の適当にみえて的確な推理いいねぇ!」

「浦田、推理というか意見ね」

「全然いいよ!ありがとう決めてくれて」

 

どの種目にしようとうだうだ悩むのがめんどくさかったので、勝ちにいく方向で誰がどれに適しているか考えてみたことを口にしてみたら、案外受け入れてもらえたようだ。じゃあこのまま異論がなければ先生に伝えようと思った矢先。

 

「リレーはいいけどよ、アンカーは石井がやるんだよな?」

「は?なんで」

「だって俺アンカーばっかしてきてっからたまには他のがやりてーわけ」

 「先言ってくれる」

「つーかお前も足速いんだから変われよ」 

「無理。先生ー決まりましたー」

「おい!」

 

あたしと三ツ原との会話に、浦田を筆頭にクラス全体から笑いが起こる。 別にウケを狙ったわけではないんだけど、浦田が笑うと周りも笑う。本当に羨ましいな、この子のこういう性格は。

 

「ぷっ!石井と三ツ原くんコントみたいだね。ずっと見てたいぐらい」

「浦田は黙っとけ」

「ヒィッごめんなさいごめんなさい」

 

でもあたしはあたしにあるものを持っていると思うから、自分に満足してる。飄々として悩みがなさそうだって言われるけど、そう言われることにハァ?ふざけんなと思う。実際は人並みにたくさん悩んでいるし、怒るし、涙を流すし、笑いもする。素直に生きてることを楽に感じても、それはそれで大変なことがある。でも今がこんなに楽しいのだから、後悔なんてするわけがなかった。

 

そうしてあたしは、リレーのアンカーを書く欄にサラッと三ツ原の名前を書いた。後ろから聞こえる怒声は一切無視して。

 

近況報告

短編小説ブログと称してレビューばっか書いてるのえるです、こんばんは!お元気ですか!私は死にかけです!
社会人なのにレポート書いて指導受けて訂正して指導訂正の生活を2週間くらい?続けてて、日々の癒しと神経と睡眠を削ってしまってるので心身ボロカスカス汁ですわ。…ごめんなさい。ぶたないでください。

というわけで更新がずいぶんご無沙汰でしたが、恐らく冬の間はこういった状況が続くと思います。誰も見てないと思うけどご了承ください。でも今日は珍しく余裕があったので小説をぽつぽつ書いたらまさかの3話もできちゃいました。WHY!なぜだ!この2週間小説のこと考えもしなかったんですが、押さえつけた欲求を発散させるとこうなるんですかね。欲求不満の力ってすげー。
一気に投稿したらすぐネタ切れになると思って1週間に1話くらいのペースで予約投稿キメたので、しばらくは安泰ですね。また何か新しいネタと登場人物考えよう。

ちなみに短編小説ですが、1回出たキャラは別の短編にちょこっと、あるいはメインで再び出演する方針で行こうと思います。ってこれ言っちゃうと面白みなくなる?まあいいか。例えば前回はAとBが出演、今回はBとC、次回はAとCみたいな感じです。短編小説の長編小説…というイメージ。どこから読んでもいいように、をモットーにしていきたいのでもちろんそうしますが、読み進めるにつれ「あっこのキャラこんな一面もあったのか!」「前サブだったこの子が今回は主役だ!」という楽しみができるのではないかと思っています。私自身こういう小説が読みたいのでやってみました。とか言って実際こういう小説あるのかな~!誰かやってるかな!やってたら読んでみてーです!
また、登場人物や小説の話が増えると誰が誰だか自分でも混乱しそうだし、誰がどの話に出てたっけ?ってなりそうなので、そうなるころにはまとめを作ろうと思ってます。というかもう自分用にメモって作ってあるんですけど!

はぁーもう今書くのが楽しすぎて仕方ないです。イェ~イ!!!サンシャイン池崎さんが今キテるのでこればっかり言いますのでガチうざいので黙ります。
YEAHめっちゃ眠たい!