泡沫のユメ

どこからでも読める金太郎飴みたいな短編小説書いていきます

見えない目撃者、レビュー

▼あらすじ

視力を失った元警察官が、車の接触事故に遭遇した。「助けて!」と車内から少女の声がしたことや、同じく事件を目撃した高校生の話を聞いて、主人公はこれを誘拐事件だと確信した。

主人公と高校生がコンビを組み、懸命に捜査するが、果たして少女の命は救えるのか、犯人は誰なのか…

 

※以下、映画本編のネタバレがあります。鑑賞後に見ることを推奨します。

 

 

 

 

 

とにかく、すごい。

見終わった後、あまりの完成度の高さに絶句しました。視力を失った主人公(以下、なつめ)がどのように”見えて”いるのか、聞こえているのかがうまく表現されているし、目まぐるしくも置いていかれない程よい展開でずっとドキドキしていました。伏線の張り方も毎回驚かされました。なつめの視覚以外の感覚が研ぎ澄まされていて、そこ気づくのすげー!ってなります。

語りたいことがありすぎますが、順番に述べていきたいと思います。

 

▼物語について

まずは 話の流れに沿って考えていきます。

最初になつめの警察学校でのシーン。その卒業式らしき場面で、卒業生代表として話をするなつめ。おそらく主席的立場だったと思われますね。そんな中で、自分の視力と弟を失う事故が発生。自分の未来だけでなく、弟の命を奪うことになってしまい、事故から3年経ってもその傷は癒えません。

そして例の事件に遭遇。

後ろから前へローラーの滑る音。車の急ブレーキの音。「大丈夫ですか?」の声。大音量で鳴るラジオ。「助けて」と叫ぶ少女のくぐもった声。車内からドンドンとドアを叩く音。アルコール臭。

これらのことから、ただのスケボーと車の接触事故ではなく、少女誘拐事件だと察したなつめの状況把握力は凄まじいです。警察に言っても取り合ってくれないので、自ら捜査を進めていくなつめの行動力も流石。

もう1人の目撃者は高校生の少年(以下、春馬)ですが、ものぐさというか事件を目撃したにも関わらず無関心。俺には関係ないし。というスタンスでいますが、一般人の反応としてはそんなものなのかもしれません。マスクと眼鏡と帽子で顔を隠した人に、大事にしたくないからとお金を握らされて、芸能人かな?薄暗かったし事故りかけただけでしょ。少女に気づいていない春馬にとってはただの接触事故だったのです。後述される春馬の過去や家族歴も関係していますが、他人に無関心な性格で捜査には非協力的です。しかしなつめの真剣で熱意のある態度に少しずつほだされて、いつの間にか片足どころかどっぷり全身はまっていく春馬。

捜査によって少女の名前、職場、経歴が明らかになり、他にも被害者がいるとわかり、それが連続猟奇誘拐殺人だとわかったときの映像はまっすぐ見てられませんでした。

事件の全貌が少しずつ露わになって、犯人像が絞られていって、特定して…そこからはノンストップの恐怖の連続です。いや、最初からか。

追われる恐怖。見つかる恐怖。殺される恐怖。失う恐怖。見えない恐怖。

思えば最初から、なつめが事故にあってから恐怖しかありませんでした。生きる希望も見えなくて、絶望の淵になつめはいた。春馬も将来の夢なんてなくて、バイトしてスケボーして、子どもに無関心な親にうんざりしながら生活して。そんな2人が1つの同じ目標をもつことで、本気で、全力で少女を救おうとすることで、2人にも不思議と力を与えてくれてたんですね。

犯人との直接対決、アクションだけじゃなくて、なつめの”見えない”という不利な部分を頭脳で補う戦い方が凄まじかった。スマホのビデオ電話しかり、メモができない分ICレコーダーで判断をまとめたところも。終盤は特に目が離せなかったです。

文章だけじゃ伝わらないので、雰囲気や表情や声色なんかも感じてほしいので、これは絶対映画館で見るべき…!!!(回し者ではありません)

あ、でもR15といえるグロテスク表現があって…猟奇殺人といえるだけの狂った犯人やスプラッタなシーンがあるので、苦手な方は避けて……あと飲食しながら見るのはおすすめしない…(ちなみに私はヤバいと思ったのでオープニングのうちに飲食を済ませました)

 

 

▼登場人物について

①なつめ(主人公。視力を失った元警察官)

見えなくなったら恐怖で何もできないだろうな、とは思いますし、なつめの中にはまだ事故がトラウマとして植え付けられているので実際行動範囲が狭まってはいます。話し方もややひねくれてしまっている。なのに果敢に犯人に挑んでいく。おいやめろ!殺されるぞ!早く逃げろ!ってこっちがヒヤヒヤしているのもおかまいなしで、捜査でも歩みを止めないし、犯人がいるっちゅーのに「私も行く!」ですよ。やめとけ!!!

でもいざそこに犯人がいるってわかったら、大人しく待ってるっていうのも難しい話ですよね。なつめのように正義感が強いと特に、指をくわえてじっと待つなんて、それじゃただの目が見えない”弱者”になってしまう。障害を負うと自分が弱者のように思ってしまうし、世間にもそう思われがち(実際、誘拐事件を目撃したと言っても、目が見えないとわかるや警察にため息をつかれる)ですが、なんの迷いもなく現場へ向かうなつめは強いです。

学生時代に学んだ知識、体術を活かしながら、見えないなりの工夫をして戦っていく戦術に感嘆します。判断力も鋭いし、事故から3年も経っているとは思えないくらい動きが良かったです。もしかして警察を続けたい気持ちはまだあったのかな?

あと、目が見えないんだな、とこちらに伝わってくる演技に度肝抜かれました。焦点が合わない瞳もそうですけど、「これあげる」とか「これ持っときなさい」って言われたときの反応とか。そういうとき見える人って渡されるであろう何かを見ますが、見えない人はただまっすぐ前の虚空を見てるんですよ。渡される手元を見てもわからないから。そういう日常のふとした光景の表現を再現できるのが凄いです。

 

②春馬(事件を目撃した高校生)

彼はなつめと違って芯が通ってない、ふわふわした存在でした。自分がないというか。学校の教師に「お前は俺に迷惑さえかけなきゃいいんだ」と言われて「はい」って言います?そこは反論しようよ。という少年の心境が変化していくさまが、見ていてにまにましてしまいます。表情もへらへらしていたのがグッと締まった顔つきになって、あんなに無関心だったのに積極的に捜査に真剣に取り組む姿が、本当に喜ばしい。私は君の親になったような気分だよ。

とはいえ途中から春馬もぐいぐい事件に突っ込んでいくので、おいおいおいお前一般ピーポーだろ?それ以上はもうやめとけ!って思うことがちょっとだけありました。なつめに感化されて正義感というか、勇気というか、そういうものをもらったんでしょうか。なつめといることで成長していくところがやはり一番の見どころですね。普通の高校生なので推理力とか体術なんかはないものの、ないなりに一生懸命立ち向かっていくことは尋常じゃないほど大変なのに、それをやってのける春馬は素敵でした。

あとスケボーめっちゃうまい。

 

 

③犯人(あえて名前は伏せます)

お前だったのか…!!! 

この人のサイコっぷりがほんっとうに気持ち悪かった。(褒めてる)

犯人だって判明してからのこの人の表情、無でありながら鋭い視線、立ち振る舞い、ナイフさばきが個人的には好きです。犯人って、バレたら普通目撃者とかを速攻で刺しにいくと思うんですよ。捕まりたくないから。でもこの人、なつめのことを全速力で追いかけずに、歩いて追いかけるんですよ。こいつ目が見えないから走るまでもないわっていう心の余裕があったからなのかな?でもそれがものすごく猟奇殺人犯ぽかった。感情的に「犯人ってバレた!すぐに消さないと!うおおおおお」ってならずに「ああバレたの。刺すか」ってクールな表情でいたところも怖すぎた。ナイフさばきもキレキレで、たぶん使い慣れてるんだろうなっていう印象がして、そこからも連続殺人犯っていうのが匂わされて、やっぱりすごい演技だなーと思いました。(小学生並みの感想)

なつめに対して、「弟をころした、自分と一緒だ、世界に絶望している」みたいなニュアンスのことを言っていましたが、この人も家族をころしたの…?あまりいい過去をお持ちではないようですね。家族を偶然、あるいは意図的に?そして女子高生ばかりを狙うというのは、誘い込みやすいから? 弱いから?なにかコンプレックスがあったから?それとも過去の犯罪を模倣して?わかりませんが…。サイコな犯人を演じる難しいところをやってのけたこの人が凄くて、なつめや春馬も含めて今後も注目していきたいと思いました。

 

 

ということで、ネタバレ回避をすべく上映日をややずらしてレビューしてみましたが、私がもう一度見たくなってきました。流石にもうやってないかな… 

キャラも演技も映像も表現もストーリーもなにもかもが良くて、怖いけどまた見たくなる映画でした。面白かった~!!