泡沫のユメ

どこからでも読める金太郎飴みたいな短編小説書いていきます

映画昼顔レビュー

話題作だって言われて何気なく見た昼顔。その映画が地上波でやるっていうので、これまた何気なく見てみたところ、なんか構成がすごいし伏線めっちゃ多くね?(語彙力)と思ったのでその熱意のままにここに書きます。

 

※以下、映画昼顔のネタバレを含みます

 視聴後の閲覧を推奨します※

 

 

まず伏線からざっくりと!

 

・紗和がシンポジウムの案内に書いていた「北野 裕一郎」の文字を見たときに、手が絡み合うシーン(イメージ映像?)がありましたが、エンディングの一番最後のシーンとの対比ですね。最後の最後に不倫は結ばれないものなんだよ、というメッセージでしょうか。

・シンポジウムで、参加者たちが総一郎に向けた質問「ホタルって家族いるの?」「ホタルって山奥にしかいないの?」にやや違和感がありませんか?このシンポジウムで2人が出会うわけですが、その帰宅後、裕一郎があまりにも上の空なので妻の乃里子に「どうしたの?何かあった?」と聞かれ、裕一郎は「ホタルがいたよ」と答えました。ホタル=紗和?

そう考えると、

ホタルって家族いるの?→紗和は夫がいたんだよ

ホタルって山奥にしかいないの?→不倫で全てを失った紗和は山奥に引っ越してきたんだよ

ホタルがいたよ→紗和を見つけた

という暗喩のようにも捉えられます。また、

ホタルは外敵から身を守るために、僕は美味しくないよって光る→紗和は相手の妻から身を守るために、ホタルを見てただけ(私は悪くない)と俯く

何度も「ホタル」という単語が出てくるので、紗和に置き換えるとしっくりくる場面がこのようにいくつかあります。

・①紗和が望んだこと:裕一郎からの好きという言葉、存在、周囲の人々から自分たちを認めてもらいたい。

②乃里子が望んだこと:愛する夫との間に子どもが欲しい。

しかし紗和のもとには子どもが残り、乃里子のもとには遺骨や遺品が残り、今後も裕一郎の妻として生きていく。お互い欲しかったものを相手が受け取る、なんて皮肉。つら…

 ・愛憎うずまく車内と、祭りを楽しむ紗和との対比。無音の冷たい空間と耳を響かせる花火。もう紗和の笑顔が悪にしか見えない。

・ エンディングで少年少女が指輪をはめるシーン。エメラルドなのは緑色がホタルを連想させるから?それとも愛の力が強いとされるエメラルドの意味を知って?

メガネをかけた少年、麦藁帽子の少女、おそらく来世?今世では夫婦になれなかった、指輪を渡す・受け取ることすらできなかった2人が来世では夢をかなえたということなのか?

 

 

ざっと伏線をまとめるとこんな感じですかね…カメラの構図やら光の当て方、天気とかも考察していくとまた深く楽しめそうですが、さすがにそこまでできねーわ!知識がねぇ!

それぞれの視点から見ることでもまた違った見方ができるので、紗和、裕一郎、乃里子の順に各視点を見ていきたいと思います。

 

 

●紗和視点

なんでオメーは会うなって言われてるのに会いに行くんだよ化粧までしてよぉ

してはいけないことをこっそりすることの背徳感はわからなくもないですね。テスト期間前のゲームとかね!ダイエット中のデザートとかね!

はじめはちょっと見るだけ、会うんじゃない隅っこから見るだけ、とシンポジウムに行ってみたところ、会話をしなければOK、触れなければOK、とどんどんドツボにはまっていく。紗和自身もいけないと思いつつも、止まれないところまでいってしまってるんですよね。週1で会う習慣をつくってしまえば、それをやめれば心に穴ができる。会うのがもはや当たり前になっている。

そうして思い人を奪うことに成功したわけですが、それで幸せなんでしょうか?多少は罪悪感があったはずです。でないと「お前たちが楽しんでるウラで全てを失う人間がいる」という台詞に刺さるはずがない。紗和もそのことには薄々気付いているけど、現実(不倫をされた人間から発せられる怒り・憎しみ)をつきつけられるとハッとしますよね。まあ、そう簡単にはやめられないんですけど。

 また、

「いっそ、あの人も死んでしまえばいいのに」

「(指輪買うね、と言われて)いいよ指輪なんか」

 たぶんこういったことを軽々しく思って/言ってしまってます。仲良いとふざけてこういったことを言ってしまうことはあると思います。でも、裕一郎がいなくなった後では、どうしてあんなことを思ってしまったのか、と後悔してももう遅い。本当はそんなこと望んでいないのに。

 結婚できる、長年かけてようやく結ばれると思った明日以降の未来が、一転してどん底に落ち、遺骨や遺品は全て妻のもとに送られる。自分と一緒に住んで、すでに心は自分のものだったのに。自分と彼をつなぐ証拠はなにもない。どうあがいても本妻には勝てない。

絶望的すぎる…ハァーしんど…

 

 

●裕一郎視点

全然違う話を先にしていいですか!裕一郎、はじめ大人しいやっちゃな~これのどこがモテるねんと思っていたんですが、もしかしたら意志の強さに2人は惹かれたのかもしれません。普段裕一郎は虫にゾッコンで、少し少年ぽくて不器用なあどけなさがあります。でも、乃里子に2人会ってるのがバレたとき、必死に紗和のこと追いかけてまっすぐな目で自分を信じて、と言ったこと。裕一郎が乃里子の家に通って離婚もせずにいる、もしかして裏切られる?と紗和から言われたときに「そんなこと言ってないよ!落ち着いてよ!」と言ったこと。大人しそうな寡黙な彼が、ちゃんと言うときは言うその熱いところに惹かれてしまうものがありますね。それでいて真面目で責任感も強くて。離婚するっちゅーのに妻の家に通って生活助けるとか、足が思うように動かせんくてリハビリしてる妻が車運転するって言うからそれに乗るとかさ。優しいんだかバカなんだかわかんないよ。というか斉藤工かっこいいね!

ハイ。話を戻して。

裕一郎からしたら、「一生愛すと約束した妻をさしおいて、愛人のもとへいく」ことが一番幸せで一番辛いでしょうね。紗和のことを思えば幸せなんだけど、乃里子のことを思えば辛い。乃里子が車椅子生活になることで、さらに追い討ちをかけるように苦しませてしまうことが後ろ髪をひいてしまい、自分のせいだと思っている。懺悔とばかりに買い物を手伝ったりしてしまう。優しすぎる。でもそりゃあ何年も愛した人をそう簡単に邪険にはできませんよね。

終盤。どうして私じゃなくてあの人なの、私の方が愛してるのに、と妻に言われて「わからない」と答えた裕一郎。そのときの表情が苦しそうで。こういう理由で紗和が好きだと言えたら納得できる(乃里子からしたらなにいわれても納得できないだろうけど)のに、自分でもわからない。乃里子を好きでいたら乃里子もこんなに苦しまずに済むし、不倫することもないし、2人で楽しく過ごせていたはずなのに。だから「ごめん」

最期の、落ちていくときの顔が受け入れたような表情をしていたから、おそらく乃里子に辛い思いをさせたことから、自分はこうなって当然なんだと受け入れたんじゃないだろうか。

罪の意識がつきまとう、楽しくて辛い恋愛だなぁ

 

 

●乃里子視点

せっかく紗和がいなくなって幸せな日々が戻ってきたと思ったら、数年越しにまた密会をするなんて。むきになるしかないでしょう。

「なんで簡単に約束を破ったの?」→「ホタルを見てただけ」そうやって言い訳をして逢瀬を重ねられるぐらいなら、言い訳なんていらない。

自分の出来なかったことをやった女が一番嫌い、なんて話がありましたが、裕一郎をここまで熱心にさせた紗和に対する憎悪たるや、考えられません。

 なのにどうして、紗和が会いにきたとき、優しくできたんだろう?愛する者を奪われる苦しみ、わかってくれた?などと冗談混じりに話すことができるの?離婚しても裕一郎って呼びたい、っていう最後のお願いも拒否されても笑顔でいられるの?あのとき深呼吸をして顔をひきつらせていたんだから、憎いと思ったに違いない。どうしてそれを飲み込むことができたのか…

裕一郎に幸せになってほしいから?それだけ乃里子の愛も深かったということか。

でも諦めようと思い込もうとしていたのに、口から思わず出る「裕一郎」の言葉が。紗和から裕一郎と呼ぶなと言われていたこの言葉が。もう今日を最後に二度と呼べないんだと思ったら…

愛していた人のまっすぐ自分を見つめる瞳。自分ではない女のために、結婚するとか指輪は買ったと話す夫。妻でいられる最後の時間。次に会うときは他人として会うことになる。どうして。どうして私じゃないの?

答えは「わからない」

紗和を選んだ理由、つまり自分が選ばれなかった理由は、わからない。わからないのに紗和を選ぶの?

そんなの許されるわけがない。

 

裕一郎は最期に、ごめん、でも紗和が好きなんだと言った。指輪も買ってるというのも直前に聞いていた。でも乃里子は紗和に「最期に私に謝りながら死んでいった」「指輪?なんのこと?」と話した。謝ったことは事実だが紗和が好きと言ったこと、指輪を買ったことは隠して。

そしてあなたを一生恨む宣言をしてからの、笑顔。紗和に裕一郎を渡すことなく(離婚することなく)紗和から裕一郎を奪い返したとでも言いたげな笑顔。紗和の欲しかった好きという言葉、指輪なんて教えずに絶望に叩き落してやったというような笑顔。前は無理やり笑って紗和にお茶の用意をしていたが、もうそんなことする必要はない、やっと本音を言えたというようにもとれる笑顔。なんとでも受け取れるその笑顔がいかにも人間らしくて、悲しい。

 

 

というわけで、がむしゃらに感想と解釈をざざっと書いてみました。みんな辛い気持ちになっててほんと見ててしんどかったですが、なんでかつい見てしまいますね。紗和が、裕一郎の左手薬指をチラチラ気にしてる姿だけでもう泣ける。紗和を応援する気はないけど、2人の純粋な恋愛ドラマなのかと一瞬錯覚してしまいそうだった。

切なくて興味深い映画でした。